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第25回 薪能のご案内
●日時 平成18年 5月27日(土)
午後5:00 始
5:30 法要
6:00より演目開始
●演目
能 「藤戸」 前シテ 梅若紀長
後シテ 梅若泰志
狂言 「昆布売」 シテ 山本東次郎
能 「土蜘蛛」 シテ 梅若万佐晴
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雨の薪能
隣の観客が驚いていることが、はっきりとわかった。
隣の人だけではなく、お堂全体がある種の驚きに包まれているのだとわかるまでに、それほどの時間は必要なかったように思う。
今年で25回を数えた「増上寺 薪能」は、そうした驚きの渦の中で始まった。
三解脱門を背景にそびえ立つヒマラヤ杉の威容。その下でくり広げられる「増上寺 薪能」は、都内屈指の能舞台として広く知れ渡っている。
年に一度しか演じられることのない「増上寺 薪能」のその日、気圧の影響で関東地方は大雨に見舞われた。
そのため、今年の舞台は、金色に輝く本尊阿弥陀如来座像を中心に両脇に宗祖法然上人と高祖禅堂大師が祀られた、厳かな「大殿」の中となった。25回の数える舞台の中で、大殿で演じられたのは3回だけだという。
増上寺 成田法主の厳かな法要のあと、いつものように薪能は雅楽の音と共に静かに始まる。堂内を埋めつくした観客の雰囲気が大きく変わったのは、そのときだ。
抑揚を抑えるイメージが強い古代からの音色が、表現力豊かなしらべとして堂内の隅々まで響き渡る。
リズミカルでありながら、豊かな感情を伝えてくるふくよかな音色。登場人物の心のひだの一つひとつを丁寧になぞるように、私たちのところにしっかりと届けられてくる。
横笛(おうてき)、篳篥(ひちりき)、笙(しょう)は、主役級の重要な役割が与えられ、能の世界に計り知れない奥行きを与えていたということが、一瞬のうちに私たちに伝わってくる。
間近で演じられる演目は、「能面」の表情がはっきりと読み取ることができる。「藤戸」の哀しい漁夫の怒りと絶望、そして諦念。「土蜘蛛」の胡蝶の眼は、企みを秘めた美しさに満ちている。
足下に目をやる、上を見上げる、首を振る・・・。一つの面でありながら、動きの中で幾重にも表情を変えていく。
屋内でなければ、能が持つこうした表現の奥深さを、ここまで堪能することができなかっただろう。
お堂の観客は演目に見入り、ため息をつき、笑い、息を呑んだ。能を生き生きと感じているのがわかった。それはもしかしたらこの大雨のおかげかもしれない。
すべての演目が終わっても外の雨脚は一向に弱くなる気配もない。本殿の外では雨の中にヒマラヤ杉が静かにかすんでいる。本堂の後ろにそびえ立つ橙色にライトアップされた東京タワーも、330mのその中ほどから雲の中に隠れていた。
雅楽の音色がいつまでも耳に残り、本当の「能」に出合ったような嬉しい雨の夜だった。(文・木村 明)
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