お盆、彼岸と続いた諸法要も過ぎ、いつしか風の爽やかな秋本番を迎えました。

 今月のことばは法然上人が『阿弥陀経』の一節を解説された『選択本願念仏集』十三章「念仏多善根篇」より選びました。現代文にすると、念仏以外のありきたりな善行(少善根)では、かの極楽世界には往生できません、となるのでしょう。この少善根は多善根に対する言葉であり、浄土宗では極楽浄土への往生を目指すに際し、阿弥陀仏が選ばれた本願であるお念仏が多善根であり、阿弥陀仏が選ばれなかった諸行は少善根であるとします。さらに法然上人は同書において、念仏は大善根・勝善根であり、諸行は小善根・劣善根であると結論づけられています。

 『阿弥陀経』には多善根との言葉はありませんが、少善根では往生できないということは、多善根である念仏こそが往生の行であるとなります。『阿弥陀経』には他にさまざまな大切なことが述べられていますが、阿弥陀様の本願であるお念仏こそが大善根で往生の正因となるのだという重要な言葉です。

 ややもすると通仏教的な悪いことを慎み、善いことを多く積むことが善根であると考えてしまいますが、念仏は阿弥陀様の本願であり、阿弥陀様そのものであり、絶対的価値をもち、何ものにも勝る善行となります。

 だからこそ念仏するものはひとりでに悪いことはしなくなり、善いことはすすんでしたくなり、ましてや往生の正因となる多善根、勝善根、大善根であります。

 この尊い大善根であるお念仏を、私たちはしっかり申してゆきたいものです。

教務部長 井澤隆明