今月のことばは『三部経釈』より選びました。

 今年は雨の多い夏でしたが、彼岸を過ぎ吹く風にも秋の気配が感じられる昨今です。

 お念仏によって彼岸である阿弥陀様の浄土の世界に往生させていただく私たちでありますが、何のために往生するのか、その目的を法然上人のご法語より選んで今月のことばと致しました。

 この言葉は『選択集』第八章「三心 [さんじん] 篇」に善導大師の『観経疏 [かんぎょうしょ] 』を引用する形で述べられていますが、三心とは浄土に往生せんと願う者が発さなければならない三種の心で、至誠心 [しじょうしん](真実の心)・深心 [じんしん](深く信じる心)・廻向発願心 [えこうほつがんしん](浄土に往生したいと願う心)のことで『観無量寿経』に説かれています。

 さて法然上人はこのうち廻向発願心を詳しく説明される中で、まず往相 [おうそう] 廻向といってお浄土に往生したいと願う心が大切であると述べると共に、還相 [げんそう] 廻向といって、「回向とは往生を得た後に慈しみの心を起こし再びこの世界に還り人々を教え導くことである」という今月のことばが続くのであります。このように廻向発願心には二通りの廻向があるのです。

 法然上人は多くのご法語を遺されていますが、ほとんどが往生することを勧めていることが多く、還相廻向については多くは触れておりません。これは苦界の中でさまよう凡夫である我々を、一刻も早く一人でも多く救済したいという法然上人の強い意志が、まず往生することを第一にされたからでありましょう。

 浄土教も仏教ですから、上に向かっては悟りを求め、下に向かっては多くの人々を救っていく(上求 [じょうぐ] 菩提・下化 [げけ] 衆生)ことや、自らの仏道修行によって得た功徳を自分のためにすると共に他のために仏法の利益をはかる(自利利他 [じりりた]・自行化他 [じぎょうけた] )という基本精神は変わりません。私たちは浄土に往生し、六神通を得て急いでこの地に戻り、多くの人々のためにはたらかせていただくという大きな目的をもって念仏の修養に励んでゆきたいものです。

 永遠のいのちを限りなく燃やして希望と使命感をもって喜びの中に生きる本当の人間の姿がここにあるのです。

 しっかりお念仏を。

教務部長 井澤隆明

増上寺