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平成30年の新年を迎えて

 新年おめでとうございます。本年も健康に恵まれて、無事に過ごされますように念じ申します。平成の年を迎えて、いつの間にか30年が過ぎました。昭和の初期に生まれた人間にとっては、戦争という日本の国の大きな変化を体験してきました。その変化の中には、記憶に残る様々な思い出がありますが、今年戌年を迎えて、記憶に残るこんな話があります。

 東京には地下鉄が一本ありました。渋谷から浅草まで、東京の中心部分を結ぶ便利な交通機関でした。その渋谷区の松濤の付近に、東京大学の農学部教授であった上野教授が住んでいて、家にハチという名の愛犬を飼っていました。

hachiko_nygrtng2018.jpg その当時、鑑札を着けた犬は鎖で繋がられることもなく、自由に街中を歩いていました。

 ハチは大正12年11月14日の秋田県大館市生まれの秋田犬で、生後一年くらいで、上野教授の所に貰われてきました。愛犬家のご主人に育てられて、幸せな日々を過ごしていましたが、残念なことに、大正14年の5月に上野教授が脳溢血で亡くなってしまったのです。

 言葉の通じないハチには、上野教授の亡くなったことを教える術がなく、昭和の2年頃から、上野教授が渋谷駅に帰ってきていた時刻になると、教授の亡くなったことを理解できないハチの姿が、渋谷駅に現れるようになったのです。生前の上野教授とハチとが、仲良く帰宅する姿を知っている人にとって、何とかしてご主人の亡くなったことをハチに教えたいと思ったのですが、言葉の通じない犬のこと、頭を撫でたり、食べるものをあげたりするだけで、虚しく帰る姿を見送ることしかできませんでした。

 多くの人に愛されたハチは、「忠犬ハチ公」として、渋谷の駅に銅像が残され、人々の待ち合わせ場所の目標となりましたが、現在もその姿は駅前広場の隅に置かれています。

法主 八木季生