浄土宗開宗850年奉賛局だより(2026年7月)
2026.07.01
時の巡り〜奇特なるもの〜(最終回)
本年4月30日をもって、増上寺浄土宗開宗850年記念事業勧募がすべて終了いたしました。平成31年1月1日からスタートした勧募事業ですが、全国のご寺院様、増上寺のみならず多くの檀信徒様にご協力賜りましたこと、厚く御礼申し上げます。
お寄せいただきましたご浄財によって記念事業は滞りなく進み、三解脱門の大修理を残すのみとなっております。勧募の目標金額を上回ることができたとは申せ、修復工事の費用は値上がり続けております。増上寺としても完工すべく自助努力を続けてまいる所存です。
三門修復完工予定は令和14年となっていますので、ぜひ江戸の町に映えた朱の門をご覧になっていただければ幸いです。
令和6年に迎えた浄土宗開宗850年。今回その慶讃法要や記念事業をお取り運びいただきましたのは、若手僧侶あるいは修行僧として50年前に開宗800年を経験をなされたご上人様だと存じます。「開八(かいはち)」と称され、高度経済成長にも後押しをされて、大いに盛り上がった開宗800年。50年の時を経て、より質を重視して850年の慶讃事業は行われました。
私事ながら、50年という年月を隔てながらも、法然上人の選択本願念仏の真髄に触れ、報恩謝徳の誠を捧げ、浄土宗開宗を二度にわたって寿ぐことができたことは無常の喜びです。この時の巡りに逢うように命をいただいたことに感謝しています。
15年前のことになります。東日本大震災被災地支援の帰り道、「宮城県沖地震(1978年)の時、君のお寺や檀家さんの被害はどうだった?」と30代の僧侶に尋ねたことがあります。すると「はぁ、僕は生まれていませんので、わかりません。」との返事。時の流れを如実に感じた瞬間でした。確率的に言えば、彼はもう一度宮城県沖地震と同様の大きな地震に遭遇するはずです。
一方で、平均寿命から推し量ると、今回開宗850年を経験したとはいえ、50年後の開宗900年を彼が慶讃することは難しいでしょう。あくまで、仮定としての話ですが、彼は生涯の内に歴史に残るような災害を二度味わう反面、浄土宗開宗を祝う大きな法要に参列するのは一度だけとなりそうです。これも彼に与えられた時の巡りです。
ある人は1964年と2021年の東京オリンピックを楽しみ、またある人は1970年と2025年の二度の大阪万博に行くことができました。同様に50年に一度の法要を二度勤めることのできる人も存在しますし、残念ながら全くそのようなイベントや慶事を経験できない人もいます。
仏教徒であるならば、お釈迦様の生きていた時代に生きて、その教えを直接いただきたいと思うことがあるはずです。また吉水の流れに身を置くものならば、法然上人の時代に生まれ、ご尊顔を拝してそのお念仏のお声をお聴きしたいと思うこともあるでしょう。
私たちが命をいただいているのは、今この時です。確かに時の巡りは悪戯で、本来得られるものが得られなかったり、経験できることができなかったりします。
大本山増上寺浄土宗開宗850年記念事業において、数多の方々とご縁を結び、ご協力賜ったことは増上寺としても、奉賛局としても時の巡りは奇特なることと深く心に刻み、感謝申し上げます。
奉賛局部長 中村瑞貴

