縁結び
「お釈迦様と手をつないでお浄土に行きたいなあ」これは、修行を無事満行して浄土宗教師になったばかりの僧侶が、亡くなる3日前にぽつりとこぼした言葉です。自坊の本堂にある古いソファに横たわりながら彼は阿弥陀様を見つめて言いました。
在家で生まれ育ち、お寺とは何の関係もない生活をしていましたが、あるご縁でお坊さんになることを決断しました。パチンコやたばこが好きな普通の会社員の彼が、志したら一直線に修行に励んだのです。
そんな彼に過酷な試練が与えられました。修行2年目の行に入る前、癌が見つかったのです。しかし彼は躊躇することなく行を続け、3年目の行も終え無事満行を迎えることができました。
薬を飲みながら苦しくもつらい思いを抱えて受けていた行でしたが、その間に学んだ教えの数々が、彼の苦しみを和らげ救ってくれていたのです。
死への恐怖は誰しも持っているものでしょう。ただ彼には学ぶうちに確固たる信念が育っていったようです。
「願えば阿弥陀様は必ず迎えに来てくれる」
そして自坊のご本尊様を見て「手をつないで欲しいな〜」とお迎えに来てくれるシチュエーションまで想像して。
同じ浄土宗教師として、そこまでの思いになれた彼を心からうらやましく思い尊敬します。
3年前までは宗教にも阿弥陀様にも何の関心もなかった人が、不思議なご縁で浄土宗の教えに出会い、これほどまでに信じることができる、おすがりすることができる、そして心穏やかに旅立つことができた。それこそが浄土宗の教えの本質です。
「難しいことはいらない、ただひたすら念仏をしていれば必ず阿弥陀様が迎えに来てくれる。そして極楽浄土に必ず行ける」
このシンプルな法然上人のみ教えを、今、悩み苦しんでいる人々のために、その心持ちが少しでも軽くなるように、縁結びをしてあげるのが私たち僧侶の役目です。
さあ、たくさんのご縁を結んでいきましょう。
本山布教師 土居祐香
愛媛教区 光明寺