光に憧れる花

 寺の庭の片隅に、黄色い花がポツリと咲いておりました。福寿草です。まだまだ肌寒い風に身を震わせながら、日の光を懸命に集めようとしています。その姿が、待ちわびた春の嬉しさとあいまって感動的です。

 『季節の植物帳』(佐左木俊郎 著)という本に、福寿草が次のように紹介されています。「福寿草は敏感な花です。最も鋭敏に温度を感ずる野草です。福寿草は残雪のまばらな間から微かな早春の陽光を浴びて咲き出るのです。そしてとても光に感じやすく、光に憧れる花なのです。夜明けの微光と共に開いて、夜の暗さと共に眠るのです。太陽の輝きが燦爛たれば燦爛たるほど元気で、曇れば福寿草も元気なく項垂れます。寒さと暗さとをおそれる臆病な花だけに、あどけなく可愛らしい花です。」......寒さと暗さとをおそれ、光に憧れ る。なんだか他人のような気がしません。「人によく似ている」私はそう思いました。

 仏教では、この世は悩み多く思い通りに生きることが難しい世界であるとされています。私たちは、しばしば厳しい現実と向き合わねばなりません。そんな時には、荒涼たる冬野に一人放り出されたような気持ちになって、寒さと暗さとで心が閉ざされてしまうのです。しかしながら、私たちのこの孤独な心を阿弥陀様はよく知って下さいます。お念仏する人に光を当てて下さるのです。傷付き冷え切った私たちの心を何度でも暖め直して、最期には極楽の浄土へと導いて下さるのです。法然上人は阿弥陀様のみ光を「さへられぬひかり」とおっしゃいました。「決して遮られることのない光」という意味です。救いのみ光は必ず届きます。

 福寿草がお日様の光に憧れ、今にやって来る春を待ちわびているように。私たちも阿弥陀様の光に憧れ、今にやって来る救いの時を待ちわびながら生きていきましょう。今年もまた暖かく光あふれる季節がやってきました。共々にお念仏をお称えして参りましょう。

南無阿弥陀仏

本山布教師 宗川裕真
福島教区 心光寺