四月は桜花爛漫のもと大本山増上寺年間最大の法要である御忌大会が奉修されます。

 さて今月は法然上人の言葉として、特に広く世に知られているものの中から選びました。この法然上人の言葉といわれるものが集録されている『和論語』は、寛文九年(1669年)刊で十巻からなり著者は不詳、内容は古来の天皇・公卿・武将・僧侶などの名言や善行を集め『論語』に擬して書かれたものです。

 このご法語は『昭和新修法然上人全集』にも「佐々貴四郎高綱に示す御詞」として収録されています。この佐々木(貴)高綱は、近江国佐々木庄を地盤とする佐々木秀義の四男で源頼朝の従兄弟にあたります。源頼朝に仕え活躍するが、建久六年家督を子の重綱に譲って高野山大悲金剛院に出家し西入と号し、以後諸国を巡回したと伝えられる人物です。

 法然上人と交流があったものと推察され、ある時高野山に遁世した佐々木高綱が京都にのぼって法然上人に質問されたことに対するお答えが今月のことばであります。またこのご法語は『徒然草』第三十九段にも紹介され、兼好法師は「いと尊かりけり」と絶賛されていることでも知られています。

 このご法語は、実に大らかな法然上人ならではのお答えであり、『和論語』や『徒然草』にも採用され、兼好法師に「いと尊かりけり」と言わしめる程に絶妙で素晴らしいお答えであります。このような場合常識的な答えとしては、顔を洗って、正座をし直して、足をつねって、眠気を吹きとばして頑張ろうなどと言うところですが、法然上人は実に自然体で教化される言葉に感嘆してしまいます。

 私たちの日常の生活でも自動車を運転中眠くなったら、無理をせず一休みをして運転を再開すれば事故がないのと同じようなことでしょう。事故を起こしたら元も子もないのです。

 阿弥陀様を信じ念仏に生きる法然上人のこころより沸き出る言葉です。私たちも阿弥陀様にすべてをゆだね、おおらかに念仏を申して参りたいものです。

教務部長 井澤隆明